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母語と第二言語の習得・学習過程


 私は、母語と同じように第二言語を習得することはできないと思っています。

 理由は簡単で、母語の習得環境と、第二言語の習得環境では異なる点が多いからです。

 いくつか理由を上げたいと思います。

 

1.インプット量の違い

 言語を取り入れることをインプットと言いますが、母語と第二言語ではその量が格段に違います。

 母語の場合は、生まれてから起きている時にはほとんどの場合に母語のインプットにさらされます。家族からの呼びかけ、家族同士の会話、テレビから流れてくる音声…そのすべてが母語のインプットです。

 しかし、第二言語の場合はどうでしょうか。日本人であれば、日本で生活している環境を思い浮かべてください。生活の中で流れてくるのは、母語である日本語です。中学生であれば、触れる機会が最も多い第二言語は授業で習う英語。そして英語の授業は週4コマしかありません。たった週4コマの中で、母語である日本語と同じような過程で、英語だけで英語を習得することは不可能です。

 

2.母語の存在

 日本人であれば、日本語をすでに習得しています。「言語が思考を規定する」と言われるように、人が思考する場合には、言語を通じて行います。つまり、日本人の場合は日本語を通じて物事を考えるということになります。これは、第二言語を学習する際にも当然です。

 第二言語を学習する際に、母語がその学習に影響を与えることを「母語干渉」といいます。母語干渉は、正に働くこともあれば、負に働くこともあります。英語を学習する場合、日本語と英語では言語間の距離が遠い、とされていますので、日本語のルールをそのまま英語に採用することは多くはありません。

 特に、「語順」に対しての考え方は日本語と英語では大きく異なるので、英語を学習する際に日本語と同じように考えてしまうと、間違った方向に学習が進みます。

 

 母語と同じように第二言語を習得するということは、母語を使わずに第二言語を学習するということです。しかし、学習の場面で授業者が日本語を使わないとしても、学習者は物事を日本語で考えてしまうことになるので、学習が間違った方向に進む可能性は高くなります。

 

3.認知機能の発達の違い

 母語を習得する過程では、人は乳児なので認知機能は発達していません。しかし、第二言語を学習する年齢にもよりますが、いずれにしろ母語を習得する時よりも認知機能はいくらか発達していることになります。

 母語を習得する際には、まず単語を一語だけ言うレベルからスタートし、それがしばらくの間続きます。第二言語の場合は、そうはなりません。あるものを指してその名前を言う、というのを半年から一年間続けるということはありません。これは脳の認知機能の違いによるものです。

 このことから、英語の母語習得者と、第二言語学習者では、習得していく文法事項の流れが違うという研究があります。

 

 

 いずれにせよ、母語と同じ過程で第二言語を習得することは不可能に近いといえます。今の英語教育は、「英語を英語で」学ぶ、ということが大きな流れになっていますが、これは非常にリスクを抱えた前提条件があまりにも多いと思います。

 限られた時間、すでに存在する母語、そして認知機能の発達、これらを有効に使える方法が文法だと私は考えます。明日は今日述べた3つの点について、文法がなぜ有効に働くのかを論じていきます。